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辞めると決めたら、気になるのが残業代です。ずっとサービス残業だった。このまま退職代行を頼んだら、未払い分はあきらめるしかないのか。そう考えて動けなくなる人は少なくありません。
結論から書くと、退職代行を使うかどうかと、残業代を請求できるかどうかは別の話です。ただし会社に残業代の支払いを求めて話し合う役は、頼む先によって引き受けられる範囲が変わります。先延ばしにするほど、古い月から時効で消えていく点にも気をつけてください。

- 割増率は、法定時間外が25%以上、月60時間超が50%以上、法定休日が35%以上、深夜(午後10時から午前5時)が25%以上(労基法37条)
- 賃金の請求権は、条文の本則では5年。ただし当分の間は3年で時効にかかる(労基法115条・附則143条)
- 民間企業の退職代行は、残業代の話し合いまでは引き受けられない。交渉は労働組合か弁護士
- 金額まで争いそうなら弁護士。成功報酬は取り戻せた分の一部なので、先に費用を確かめる
退職代行で残業代を請求するときの全体像
退職代行はもともと、会社に退職の意思を伝える仕事です。残業代の請求は、それとは別の「お金の話」になります。
退職したあとにも、未払いの賃金は残ります。賃金の支払の確保等に関する法律6条には、退職した労働者の賃金が退職日までに払われなかったときの遅延利息の定めがあります。退職代行を頼んだから請求の権利が消える、という作りにはなっていません。
ただ現実の問題は、誰が会社と話をするかです。ここは運営元ごとに差が出ます。表にすると次のとおりです。
| 頼む先 | 退職の連絡 | 残業代の話し合い | 裁判所の手続き(代理) |
| 民間企業 | できる | できない(法律問題の代理は弁護士の仕事) | できない |
| 労働組合 | できる | 団体交渉として話せる。ただし扱う範囲は組合ごとに違う | できない |
| 弁護士 | できる | 代理人として交渉できる | 代理人として進められる |
根拠と、各社の料金は後半で書きます。先に、そもそも残業代がいくらになるのかを見ておきます。
割増賃金の率は4つ。月60時間を超えると5割以上
残業代の正式な呼び名は割増賃金です。労働基準法37条が、残業や休日出勤をさせたら、通常の賃金に割増をつけて払うよう決めています。
| 働いた時間 | 割増率 | メモ |
| 法定労働時間を超えた時間(1日8時間・週40時間) | 25%以上 | 基準は会社の所定時間ではなく法律の枠 |
| 法定時間外が1か月に60時間を超えた分 | 50%以上 | 中小企業も2023年4月1日から対象 |
| 法定休日に働いた時間 | 35%以上 | 週1日の休日などの法定休日が対象 |
| 午後10時から午前5時までの深夜 | 25%以上 | 深夜と時間外が重なる計算は労基署で確認 |
厚生労働省の「確かめよう労働条件」によると、この割増賃金は雇用形態に関係なくすべての労働者に適用されます。派遣社員・契約社員・パート・アルバイトも同じです。派遣の場合は、支払う責任が派遣元にあるとされています。
「残業代の元になる賃金」から外せる手当は決まっている
時給の人は、その時給が元になります。月給の人は、時給に直してから計算します。
厚生労働省のページの説明は、月給額を1年間における1か月平均所定労働時間数で割って1時間あたりの賃金を出す、というものです。割増の元から外せる手当は、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つだけです。
名前が「住宅手当」でも、全員に一律で払われているなら、その部分は元に含まれます。手当の名前でなく、中身で判断されます。
計算の例。月給から未払い額を出してみる
次の数字は、考え方をつかむための計算の例です。実際の金額ではありません。基礎になる賃金と、月の労働時間を仮に置いています。
| 計算の例 | 式 | 結果 |
| 1時間あたりの賃金 | 除外できる手当を除いた月給240,000円 ÷ 1か月平均所定労働時間160時間 | 1,500円 |
| 法定時間外 1時間分 | 1,500円 × 1.25 | 1,875円 |
| 法定時間外が月40時間 | 1,875円 × 40時間 | 75,000円 |
| 法定休日が月10時間 | 1,500円 × 1.35 × 10時間(1時間2,025円) | 20,250円 |
| 1か月の未払い(上の2つの合計) | 75,000円 + 20,250円 | 95,250円 |
| 法定時間外が月70時間の場合 | 60時間分は1,875円、60時間を超える10時間分は1,500円 × 1.5 = 2,250円 | 112,500円 + 22,500円 = 135,000円 |
上の例は、残業代がまったく払われていない前提です。実際には、固定残業代や一部の支払いがあれば差し引きます。
1分単位で数えるのが原則。端数のルールもある
労働時間は1日ごとに1分単位で計算しなければなりません。端数を切り上げるのは問題ありませんが、切り捨ては認められません。
例外があります。1か月の時間外などの合計に1時間未満の端数が出たときは、30分未満の切り捨てと30分以上の切り上げが認められています。
請求できる期限は賃金で当分の間3年
いちばん早く効いてくるのが時効です。
労働基準法115条の本則は、賃金の請求権を「行使することができる時から五年間」としています。ところが附則143条が、当分の間はこの5年を3年に読み替えると定めています。退職手当は5年のままです。
つまり残業代は、その月の給料日から3年で、順に請求できなくなります。請求が1か月遅れるたびに、いちばん古い1か月分が消える計算です。さきほどの計算の例なら、95,250円ずつです。
| 項目 | 期間 | 根拠 |
| 賃金(残業代を含む)の請求権 | 当分の間3年(本則は5年) | 労基法115条・附則143条 |
| 退職手当の請求権 | 5年 | 労基法115条・附則143条 |
| 付加金の請求(違反のあった時から) | 当分の間3年(本則は5年) | 労基法114条・附則143条 |
| 会社が賃金台帳などを保存する期間 | 当分の間3年(本則は5年) | 労基法109条・附則143条 |
付加金と遅延利息は「上乗せ」になり得る
裁判所は、割増賃金を払わなかった会社に対して、未払い額と同じ額の付加金の支払いを命じることができます(労基法114条)。命じることが「できる」という書き方で、必ず付くわけではありません。
退職したあとの遅延利息は、賃確法6条に定めがあります。退職日の翌日から支払う日までの分で、年14.6%を超えない範囲の政令の率です。実際の率は政令で決まります。
時効を止める手続きは弁護士に確かめる
時効の進みを止める手続きもありますが、その方法は原典で確かめられていません。期限が迫っているなら、自分で調べるより先に弁護士か労働基準監督署に相談してください。

請求しても減る・出ないことがあるケース
残業代は、働いた事実があれば必ず満額出るものでもありません。減ったり出なかったりする代表的な場面を2つ書いておきます。
管理監督者に当たるとされた場合
労基法41条は、監督もしくは管理の地位にある者に、労働時間・休憩・休日の規定を適用しないと定めています。会社が課長や店長という肩書きを付けると、時間外や休日の割増を払わなくていいと考える場合があります。
ただ厚生労働省のページに、肩書きでは決まらないと書かれています。見るのは、経営への参画と指揮監督の権限・労働時間の裁量・地位にふさわしい待遇の3つです。当てはまらなければ、社内で管理職とされていても残業手当や休日出勤手当は必要です。
もう1点。管理監督者でも、深夜割増賃金の規定は適用除外にならないと、同じページに書かれています。
固定残業代(定額残業制)の場合
定額の手当などの名目で、残業代をあらかじめ払う仕組みもあります。厚生労働省のページによれば、労基法所定の計算による金額以上を払っていれば37条には違反しません。
でも、基本給に含める場合は、割増賃金にあたる部分とそれ以外が分かれていなければなりません。実際の残業から計算した額が手当より多ければ、差額を求められます。固定残業代があるからゼロ、とは限りません。
民間・労働組合・弁護士で「できること」の差
最初の表の根拠を書きます。
民間企業は連絡役まで
弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを業とするのを禁じています。東京弁護士会は、本人の代わりに会社へ残業代の請求を伝え、話し合って支払いが決まった事例を「非弁行為」と説明しています。残業代の有無や具体的な金額の算定は、法律的な問題だという整理です。
つまり民間企業は、退職の意思を伝えるところまでです。この線引きは「退職代行は違法?」にもまとめています。
労働組合は団体交渉の形で話せる
労働組合法6条は、労働組合の代表者などが、使用者と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を持つと定めています。労働組合が運営する退職代行は、この団体交渉という形で会社と話せます。
一方で東京弁護士会は、労働組合が交渉する場合でも非弁行為になり得る、という注意も出しています。残業代を扱えるかどうかは、組合ごとに違うと考えておくほうが安全です。
当サイトで見ている男の退職代行は、2026年9月時点で、正社員・契約社員・派遣社員・公務員などが21,800円+組合費1,000円です。女性向けのわたしNEXTも同じ運営で、料金も同じです。残業代の請求を料金に含むかどうかは、公式サイトで確かめられていません。申し込む前に確認してください。
弁護士は金額の交渉と裁判所の手続きまで
弁護士は代理人として会社と交渉でき、裁判所の手続きも任せられます。厚生労働省のページにも、裁判所への申し立てで弁護士を付けるなら弁護士費用が必要になると書かれています。
ガイア総合法律事務所は、2026年9月時点で3つのプランを用意しています。25,300円は退職の意思を伝えるのみ。55,000円はアフターフォロー付き。77,000円はあらゆる雇用形態に対応するプランです。未払い給与・残業代の請求は、獲得できた場合のみ成功報酬20〜30%がかかります。
| サービス | 運営 | 退職の料金(2026年9月時点) | 残業代の請求 |
| 男の退職代行 | 労働組合 | 21,800円+組合費1,000円 | 公式サイトで確認 |
| わたしNEXT | 労働組合 | 21,800円+組合費1,000円 | 公式サイトで確認 |
| ガイア総合法律事務所 | 弁護士 | 25,300円・55,000円・77,000円 | 獲得できた場合のみ成功報酬20〜30% |
料金全体の相場は「退職代行の料金相場」にあります。
頼む前に手元に置く記録と、無料の窓口
どこに頼む場合でも、残業した事実を示す記録があると話が早く進みます。
- 労働契約書・労働条件通知書(所定労働時間、固定残業代の記載)
- 就業規則の賃金規程(割増率、固定残業代の扱い)
- 給与明細(できれば3年分。残業時間と手当の欄)
- 出退勤の記録(タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間の記録・業務メールの送信時刻など)
- 自分で付けた日々のメモ(始業・終業の時刻と、頼まれた業務の中身)
厚生労働省の労働時間の把握に関するガイドラインでは、使用者が始業・終業時刻を記録する方法が決まっています。自分の目で確かめるか、タイムカードなどの客観的な記録を基礎にするかのどちらかです。会社は賃金台帳も、各事業場ごとに作って賃金の支払いのたびに記入しなければなりません(労基法108条)。
退職の連絡を入れたあとは、社内の端末や書類に触れなくなることがあります。記録の写しは、連絡する前に取っておくほうが安心です。
労働基準監督署への申告と、労働局のあっせんは無料
労基法104条は、法令に違反する事実がある事業場について、労働者が労働基準監督署などに申告できると定めています。会社は、申告したことを理由に解雇などの不利益な取扱いをしてはなりません。
厚生労働省のページでは、労働基準監督署・都道府県労働局への申告やあっせんは無料でできると書かれています。弁護士費用がかけられない人は、まずここに行く手もあります。ただし、監督署が個人の代理人として金額を取り立ててくれるわけではない点は、頭に入れておいてください。
状況別に、どこに頼むか
最後に、残業代の事情ごとの選び方を並べます。
残業代はあきらめてもいい。とにかく早く辞めたい人
退職の連絡だけで足りるなら、民間企業か労働組合の退職代行で間に合います。ただ時効は進むので、あとで請求する気が少しでもあるなら、記録だけは残してください。
会社と話し合って、有給や退職日も一緒に決めたい人
労働組合の退職代行が合っています。団体交渉の形で話せるからです。
女性なら同じ労働組合の【わたしNEXT】も選べます。残業代まで扱ってもらえるかは、申し込む前に聞いてください。
金額を争いそう。未払いが長く続いている人
未払いが何年も続いている、固定残業代があるのか判然としない、会社が管理職だと言い張る。こうした場合は、最初から弁護士に頼むのが無難です。成功報酬があるので、手元に残る金額の見通しは先に聞いておいてください。
有給の消化は「退職代行で有給消化はできる?」、退職金の請求は「退職代行を使うと退職金は出る?」に書きました。ほかのサービスも比べたい人は「退職代行おすすめ比較ランキング」を見てみてください。
料金は2026年9月時点で各サービスの公式サイトを確認したものです。法律の条文や制度は変わることがあるので、申し込む前に労働基準監督署や各社の公式サイトでも確かめてください。個別の判断は、弁護士や労働基準監督署にご相談ください。

































